多重人格

先月神戸にあるKIITOにて開催されていた出版社edition.nordのファクトリーKIIIIITOの展示とトークショーを見に行ってきた。

一昨年の10月にhibiでedition.nordのポップアップArchivist makes up (                  )を開催して以来、僕は勝手に尊敬の眼差しで、秋山伸さんを見ている。秋山さんと、これも勝手にイタリアのアートブックフェアSPRINTに行った。そんな秋山さんとの思い出に浸りながら、久しぶりに秋山さんにお会いしトークイベントと展示を見にいった。

KIITOにてedition.nord「ファクトリーKIIIIITO」

トークイベントでは、グラフィックデザイナーの大田高充さんをゲストに招き、秋山さんと大田さんが、現在の活動や大阪の中津で開催していたApplied Typography Workshop, Osaka ed.02 “schtucco typology school” revisitedの話をしていた。このスクールは2010年にも同じ場所で開催しており、大田さんはその時の卒業生で現在グラフィックデザイナーとして活動している。

実のところ、僕はタイポグラフィに関して、どのような思考でテキストを配置し制作していくのか、見た時になぜ心地いいものとされるのか、理論的にはわからず、感覚的にしか良し悪しを判断できない状態であった。そんな状況下の中で、トークイベントの内容はかなり複雑で、頭を抱えながらに聞いていた。

それでも僕は秋山さんのイメジャブルや神戸のカオス展のフライヤー、クリスチャン・ホルスタッド、大竹伸朗の作品集や秋山ブクとしての活動が好きだ。ビデオとは違い、静止性を伴いながら、散逸的で文字と文字が絡み合い、ノイズを聴いているような潔さと一寸の隙で崩れてしまいそうな緊張感を、2次元の枠組みの中で表現するスタイルに臨場感とバランスの良さにいつも唖然としている。

24日から始まるポップアップ

「WE ❤️ VICTORIA AND ALFELD MUSEUM AND DENT DE LEONE POPUP

ウィー ❤️ ヴィクトリア アンド アルフェード ミュージアム ダンデリオン ポップアップ

HOU DO YOU SPEAK TO ALFELD?」

このポップアップの主なデザインを手掛けるMAKI SUZUKIにもある種の似た性質を感じている。

2000年にロンドン・カレッジ・アートで出会った4人Patrick Lacey(イギリス)、Benjamin Reichen(フランス)、Kajsa Ståhl(スウェーデン)、Maki Suzuki(フランス)によって、イギリス・ロンドンで設立された、グラフィックデザイナー・アートコレクティブÅbäke(1)のメンバーであり、出版社ダンデリオンやVICTORIA & ALFERD MUSEUM(2)、衣料品と音楽のレーベルKITSUNEなど、ジャンルを横断して活動するMaki。

そんな彼が今回hibiの為にhibi T(Hi! BEE)を制作してくれた。昨年の8月彼とのやりとりの中で、hibiの為にTシャツを作ろうか?という話が舞い込んできた。マルティノ・ギャンパーやライアン・ガンダー、マックス・ラム、マルタン・マルジェラといった数えきれないほど多くのデザイナー/アーティストたちとコラボレーションしてきた彼らが見ず知らずの僕にコラボレーションをしようという誘いがきた。自分には遠い存在であった彼の誘いに本当にやって良いのかと戸惑いながらも、彼の好意を有難く受け入れた。

昨年の8月にMakiが制作してくれたhibi T

それから今年に入り、2度目のコラボレーションTシャツを制作してくれた。Hi! BEEとデカデカとプリントされた周囲には、Hi!と手を挙げたようなプリントと、大手シューズメーカーのロゴが、hibiが服を扱っていることをちらつかせるように、アイロニーが籠ったプリントで施されている。またバックプリントの無名のサインは、様々な名義で活動する実にMakiらしいプリントである。

Photo by Maki Suzuki

hibiが古着を扱っていることに因んで、今回のボディは全て古着を使用した一点モノの作品になった。また全て手摺りによるプリントのため、プリントの掠れや配置が異なるものもある。これはMakiがAiko&Werner(3) として活動する経験から、ミステイクを許容し、全てが完璧で手の付け所がないものに対する逆説的なアプローチとして、反映されている。

Photo by Maki Suzuki

今回のhibi T(Hi! BEE)のローンチに合わせて、彼がV&Aの為に制作したピンズやポスターといったマーチャンダイズや、Makiが制作したThe Lost Olympic series(惜しくもオリンピック開催地に選ばれなかった都市の招致ロゴを使用した、敗者を讃えるためのシリーズ)、Charlotte York(4)が制作したジャケット、Makiが所有していたアイテムなどを並べるポップアップショップを開催します。

またDent De Leoneのディストリビューターである東京の書店Utrecht のお力添えによりMartino Gamper、Gemma Holt、Kajsa Stahl、Maki Suzukiの4人が運営する出版社Dent-De-Leone(5)の書籍も販売します。

今回のコラボレーションを振り返ると、彼はコラボレーションを通して、他者とのコミュニケーションを行い、新たな視点を広げることで、様々な問題に関する解決策や新しいアイデアの発見、また自分の考えを問い直す足がかりとして機能する実利的な面と、他者の介入を通して純粋に楽しめることができる情緒的な面との2つの要素を、Maki Suzuki、Åbäke、V&A、Aiko & Werner、Charolotte Yorkといった様々な人格を使い分けて活動している。

今回のHibi T (Hi! BEE)は、V&Aの別注アイテムとして制作されたものだ。

スタジオの香り(ダウニー?)を纏ったままお届けします。

彼の活動を調べていくうちに、ふとedition.nordが頭によぎった。edition.nordのイメジャブルの文字が生命体のように動き回るさま、秋山伸さんが秋山ブクとして別名義で活動し、ブリコラージュ、アレンジメントしていく方法など、スタイルは異なるが似たものを感じた。僕もまたコラボレーションを通して、視野が広がった気がする。

今回のポップアップは、沢山の方に見てもらいたいと思い、いつもより長めに2週間ほど開催されます。いろんな視点で作品を見ることができるとても面白いポップアップです。Maki本人も彼が作った作品を見て、様々に思考を促し、何を感じるのか、自分たちの目を信じて確かめて欲しいと言っていました。

僕もいろんな意見聞きたいです。是非遊びに来てください。

(1) Åbäke(アバケ/オバケ)
2000年にロイヤル・カレッジ・アートで出会ったMaki Suzuki、Patrick Lacey、Kajsa Ståhl、Benjamin Reichenが、ロンドンで設立したグラフィックデザイナー・アートコレクティブ。グラフィックの社会的側面とコラボレーションがプロジェクトにもたらす力に焦点を当てています。またダンデリオンの多くの作品集をÅbäkeがデザインしています。

(2) VICTORIA & ALFERD MUSEUM
Prune VictriaとIngail Alferdにより設立された非営利団体。実際には作品を所有せず、それらに関するストーリーを紐解き、Web上で閲覧可能にすることで、鑑賞者が作品に介入することを可能にします。キュレーターであるMariab Nielson、デザイナーÅbäkeとThomas Bushにより、私的好奇心や間違い、トートロジーによる不調和への関心をもとにコレクションをまとめている。

(3) Aiko & Werner
ロンドンを拠点に活動するアーティスト。主にシルクスクリーンを使用し、ときには版画やリソグラフ、写真、オフセットを使用した作品を制作する。またV&Aのマーチャンダイズも多く手掛けている。

(4) Chalrotte York
ロンドンを拠点に活動する作家。代表的な作品に、彼女の財布「Knife」の中に入った偽札や名刺、メモといった様々な紙の物語を綴った作品集「The Knife」や、スーツケースの中に入っていた人体を、税関に見られたことで始まったストーリーを記録した「ENTER FATIMA」などがある。

(5) Dent-De-Leone (ダンデリオン)
2007年から活動する非営利団体の出版社。Martino Gamper、Gemma Holt、Kajsa Ståhl 、Maki Suzukiの4人で活動しており、彼らの好奇心と思慮深いエディトリアルにより作品集を制作している。出版を主な活動とし、それに関連するオブジェクトや非物質的な出版物も制作している。

木原

 

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