僕とカトカの出会いはいつだったか、はっきりとは覚えていないけれど、よくお店に遊びにきてくれていて、気づいたら仲良くなっていた気がする。デザイナーは片岡シキカーラとヤスナミタカヒロ。ここでは親しみを込めてシキさん、ヤスくんと呼ぶことにします。常に陽気で話が絶えず、お店に来てくれる時はいつもちょっと変わった差し入れをくれるシキさんと、物静かで詩的な空気感を持ちつつも、ちょっとハイテクなヤスくん。
先シーズン、展示会のご招待をいただき、ちょうどタイミングが良かったので会場の某ギャラリーに1人で足を運びました。一見対照的な人間性を持つ2人がどんな服をつくるのか、単純に興味があったのでフラッと遊びにいくつもりでした。会場であるビルの一室に到着すると、そこは床一面砂に覆われていて服よりもまずそのインスタレーションの空気感に圧倒されました。こぢんまりとした7畳ほどのギャラリースペースはまるで砂漠のように乾いた別世界へと変貌していました。お二人曰く、毎シーズン展示会の際は、シーズンテーマに合わせて会場の内装を練るのに力を入れているのだそう。
一通り試着させてもらい、そんなこんなで気づいたら僕も受注していて、満足した気持ちで帰路に着いたのを覚えています。
カトカの服づくりはシキさんの日常の些細なワンシーンから始まります。それはアトリエからの帰路にみた、ありふれた都市の風景であったり、雨の日の軒下から滴る雨水だったり、テーブルの上に置かれたコップだったり、ふと開いたら写真集の1ページだったり。
そういう誰しもが日常の中で経験するありふれた、空気よりも薄い、浮遊感のある繊細な情景を起点に、デザイン画が描かれます。それをパターンに起こして服という実体へと作り替えるのがヤスくん。今シーズンのデザイン画を見せてもらいましたが、描き殴られたようなアブストラクトなシルエットのイラストだったので、これが服になると素人目からはとても考えにくかったのですが、それを汲み取るヤスくんは余裕そうな顔をしていて、これが2人の共通言語なのだと思いました。
カトカの服は、文章で表すにはあまりに抽象的です。アトリエの本棚にはウタバースやアンゼルムキーファー、ゲルハルトリヒターなどカトカのフィルターを通して2人が共有するアーティストの作品集が積まれていました。アトリエの作業台に各々が蒐集してきた書籍を置いておくと、各々が目を通し、言葉を交わすことなく共通のイメージとしてカトカに昇華されているそうです。カトカのアブストラクトな空気感は、言葉をも先行した、ビジュアルコミュニケーションによってつくられています。
カトカは実際にその洋服に触れることで初めてその繊細な息遣いを感じ取ることのできるブランドです。そんなブランドであるからこそ、ネットに散漫する雑多な情報と距離を置き、実際に店頭で見ていただくことで服本来の情緒を感じていただけると思っています。また、それがこのイベントの意義の一つであるとも感じています。
期間中は皆さんにコーヒーを提供して、デザイナー2人とのコミュニケーションが取れるようなスペースをご用意する予定です。また最終日30日には、ワインと軽食をご用意してささやかなレセプションパーティも予定しています。是非お気軽にお越しください。
永田
KTOKA (@ktoka_garments)
オーストラリア出身の日本人デザイナー、片岡シキカーラ氏と、Yasunami Takahiro氏による日本のファッションブランド。”Thinner than air”をブランドコンセプトに、日常にありふれた情景や空気を、デザイナーの過去の記憶や回想をリンクさせて、アブストラクトな空気感を映し出す洋服を制作する。生地の加工や開発にも注力しており、詩的でありながらもどこか実験的な試みも行っている。
第7回Asia Fashion Contest にてグランプリを受賞し、2020年2月に行われたNY fashion weekにてランウェイデビュー。