wellの洋服が届いています。hibiでは新規取扱となるwellですが、以前コラボレーションさせていただいたり、系列店のFOMEでも展開されていたりと、なんだか前からあったような気持ちです。
2017年から活動するwellは、4人で行うデザインスタジオとして、ファッションからグラフィック、出版物まで幅広い領域で活動しています。様々なメディアを横断しているからこそ、他者との共同や回顧的な視点からコレクションを発表するなど、周囲の環境を受容し、彼らのサイクルの中で広がるような活動を行っています。

昨年開催したイベント「Platform」でwellとAYA YAMANAKAとのコラボレーションアイテム

批評家のマーティン・ハーバードが現代美術誌『Artforum』に寄せた「ANGLE OF REPOSE : THE ART OF ANDREA BÜTTNER」(2015)では、先の用語を題し、美術作家アンドレア・ビュットナー評を論じました。この記事においてハーバートは、版画やガラス、映像など多様なメディアを用いながら「恥」や「労働」の問題を探求するビュットナーの作品群に、「落下」という一貫する要素を見出します。実際、作品内には落下があり――例えば、会場に石炭やにんじん、空き缶やオレンジの皮などが落ちていたり――、彼女の視線はしばしば下方に向けられています。そして「落下」はこの作家が、いわゆる英雄的で偉大とされる芸術家像にありがちな上昇的イメージとは相反する作家像を持ち合わせていることを示してもいます。ビュットナーの素振りに、自己の才能や成果を誇示するようなものはありません。彼女は他者を必要とし、その影響を公然と受け、限界を引き受けながら制作を進めキャリアを積み上げてきました。そこには、こぼれ落ちたものへの眼差しと、そこから生まれる無理なく保たれる最大(安息)角のイメージが重ね合わされます。

well #33 ANGLE OF REPOSE ステートメントより

wellは、ハーバードが語るビュットナーのイメージ像「安息角」と、多岐に渡る彼らの活動を重ね合わせ、彼らの視座を特定するべくコレクションタイトルを「#33 ANGLE OF REPOSE」と名付けました。
wellの今回のコレクションでは、ハーバードがビュットナーを特定のイデオロギーでは回収されない不安定な位置に属している点で、それを安息角と示したように、彼らもファッションという枠組みの中で、デザイナーのセンスや才能が崇められ、記号としてのブランドの在り方ではなく、その状況を受容しながら他者との関係性や現在地を尊重し、彼らの安息角を模索した作品を展開しています。

Thin Knit T-shirt
Packable Dress

コレクションアイテムでは、その安息角をファッションのボキャブラリーで表現しています。パーティーやお披露目会などで使用される豪奢なイメージを想起するドレスは、現実ではそれらが洗濯ネットに入れられ、洗濯機で洗われるといったリアルを突き詰めるように、中央に洗濯ネットがパッカブル仕様で縫い付けられた「Packable Dress」を、また女性的でボディコンシャスなシルエットを想起する緩やかに編まれたニットは、普遍的なTシャツとして「Thin Knit T-Shirt」と名付け制作しています。
そして、それらが単なるコンセプチュアルな作品に留まらないのは、彼らがファッションというフィールドに位置していることを自覚しているためであり、それらの洋服は美しく、確かなファッションの魔法を宿しています。

僕のようにショップに立つ人間にとって、他店との関係性や各々の差異、またトレンドや過去の遺産といった時間軸を捉えながらショップを運営していくことは、日本にある数多のショップの中でどのように存続していくのかを問う、一つの重要な指針になります。
しかし、彼らのコレクションタイトルと重ね合わせると、それが単なる個々人の主張で乗り越えるのではなく、過去の背景や既に存在する多くのショップがあるからこそ、実現できるという考え方も大事な気がするんです。

wellはこのようにファッションとして表現されていながら、そこには彼らの洋服がどのような背景で制作されているのかを考える余白があり、自己を考えるきっかけになる作品としても機能しているように感じています。ぜひ皆さんも自身の現在地を見つめ直す契機として手に取りながら、それらを純粋に楽しんでいただけたら嬉しいです。

well

木原