京都・美山。重要伝統的建造物群保存地区として登録されているこの村は、39棟もの茅葺き民家が軒を連ね、自然と共生した村民たちによる田園詩的な風景が広がる現代でも数少ない場所。ファッションとはあまりに縁遠く感じる辺境で、神秘に満ちたこの村の古民家と工場跡を製作スタジオとして構えるCOSMIC WONDERから、The North village fairが大阪・中津の店頭に届きました。
現代美術家でありCOSMIC WONDERの主宰・デザイナーを務めるAAWAA氏は、自身の経験した事象を主体に写真、立体、絵画などの表現手法を通して精神的な空間を構成してきました。30年ほど前から続くCOSMIC WONDERのプロジェクトも氏の表現領域の一つであり、主に衣服、書籍などを通して展開しています。
僕はCOSMIC WONDERというプロジェクトが、氏が世にこれまで生み出してきたもののなかで、殊に人の生活に密接したクリエイションの一つであると感じています。氏が実際に体験し、数々の実践の中で体系化された「波動領域に作用する美しい光」という概念を内包して制作された洋服たちは、私たち個々人が生活の中にその精神世界を見出すきっかけを与えるものでもあります。
感覚的でアブストラクトな氏のこのプロジェクトへの理解を深めるための、僕なりの補助線を今回届いた洋服のフィルターを通して書いていきたいと思います。





コットン、ナイロン、リネン、ラミーが混紡されたテキスタイルを用いたコート、ジャケット。この複雑なテキスタイルは日光にあたると生地本来の光沢と軽やかさが顕現する、いわば光にさらされることを前提としたテキスタイルともいえます。それをふんだんに使い、曲線的なパターンワークで縫い合わされたコートは着用者に浮遊感すら覚えさせるエアリーな洋服。ラペルが内側に折り返されたジャケットは、伝統的にマスキュリンな衣類として位置付けられてきたテーラードジャケットを、AAWAA氏のフィルターを通してよりジェンダーレスなオーセンティックウェアとして、そしてミニマルなデイリーウェアとして現れます。



ジッパーやボタンを排したシームレスでオリエンタルな雰囲気を醸すラップパンツはCOSMIC WONDERの中で印象的な洋服の一つ。前述したThe North Villege fairというのは、先の春夏から繋がる年間のコレクションです。秋冬を見据えたラップパンツは、優しいウォームタッチのコットンカシミア素材。アイテム本来の、ドレープの美しさを残したままシームレスに秋冬へと移行します。性別や体型に縛られず、まるで洋服が着用者に寄り添うような洋服デザインは、COSMIC WONDERに集う人たちに分け隔てないAAWAA氏の精神性のあらわれとも想像できます。




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円環のモチーフはCOSMIC WONDERのプロジェクト最初期から多用されたモチーフで、The north Villege fairの洋服の首元にも丁寧な手刺繍で縫い込まれています。放射状に編まれたタスマニアウールのニットベストは日暈のように神秘的な雰囲気を纏い、丸ヨークで切り替えられたカシミヤポロはシームレスに身体を包みます。細部に意匠を凝らしたニットウェアからは、COSMIC WONDERの丁寧なクラフトマンシップを感じます。
COSMIC WONDERの洋服を着用していると、自然と肩肘の筋肉が弛み、ひととしての根源的な充足感を満たされる感覚になります。都市に住む人も郷里に住む人もひとはひと。COSMIC WONDERというプロジェクトは、美山の山奥の静謐の中から湧き出る生命の純粋さを、二元的な比較の中で忘れがちな現代の我々に気づかせてくれるものなのかもしれません。是非店頭で袖を通してその精神世界を肌で感じていただければと思います。
永田